東山画伯と建築家であった父(吉郎)とは親しく、そのため私も画伯の作品には興味を持ち、以前に展覧会の展示・構成のお手伝いをさせていただいたこともありました。このたび、東山画伯のご意向で美術館の設計を担当させていただき、大変光栄に思っております。
美術館に展示される作品は、伝統的な日本画であると同時に、現代を代表する独創的な作風となっています。従って、この美術館の設計もいわゆる和風建築ではなく、現代の日本を表現するような建築を目標としました。
今回の設計で考えたことは、言うなれば展示作品の額縁になるような建築にするという方針です。額縁は絵よりも目立ちすぎて鑑賞の妨げになってはいけないし、絵を守る役目もある。「簡潔な意匠と十分な機能性」ということから発想しています。
建物の壁には石を使ったらという話もありましたが、あまり重厚な材料は作品の特徴である繊細さと調和しません。ですから、軽快感を出すためにアルミ材を用いました。美術館はあまり重々しいと、権威的になって人を遠ざけてしまうものです。
外部は善光寺に近い公園の中にあるため、その環境とも調和しなくてはなりません。外側を低い塀で囲い中庭と池を設けましたが、これは公園の領域から美術館を、空間として分けるためです。同時に公園に遊びに来た人も自由に池越しに美術館を眺めることが出来ますし、公共的な場所であることを意識して開放的な空間になっています。中庭に面したラウンジの天井には池の水に光が反射し、波紋を描きます。
美術館の建築は、内部では展示物や人が空間をつくり、外部では自然、つまり光や風や緑が四季折々の表情を与えてくれることが重要だと私は思います。
静かな雰囲気の中で東山美術を見るために多くの皆さんに来ていただければと思っています。
平成2(1990)年4月
建築家 谷口吉生