今回は「信州の工芸」と題して長野県信濃美術館の収蔵する工芸作品をご紹介いたします。収蔵品に占める工芸作品は限られていますが、平成15年度にご遺族から松井康成作品100点をご寄贈いただき、質量ともに当館の工芸分野の柱とすることが出来ました。
松井康成は、佐久市(望月)に生まれ、30歳で茨城県笠間市月崇寺の住職となり、「練上手」によって重要無形文化財(人間国宝)の認定を受けた陶芸家です。
練上は、色の異なる土を重ねたり練り合わせて、文様のある生地土を作り生成する技法です。種類の異なる土の組み合わせは、収縮率などの違いから破損しやすいため、松井は基本となる土を同じものとし、そこに少量でも鮮やかに発色する呈色剤を混ぜる「同根異色」の方法により、練上表現の可能性を格段に広げました。初期から晩年までのおよそ30年間に10種類もの独自の練上表現を展開させ、陶芸のカラリスト(色彩家)として異彩を放っています。
松井はわずか9歳で信州を離れましたが、故郷として信州は常に脳裏にあったといいます。自らのせっかちな性格についても「(望月では)山が近いから、すぐに日が暮れてしまう。やりたいことは日の出ているうちに何でもやっておかなくては出来なくなってしまうから。」と信州気質であると捉えていたようです。
寄贈作品についても、作陶の初期からゆかりの地への寄贈を念頭に蓄えていた作品群であるといいます。唱歌「ふるさと」の3番を好んで口ずさんでいたという松井にとって、寄贈作品は故郷へ帰した松井自身であるともいえましょう。
工芸は特に素材、技術が大きな比重を占める造形の分野です。松井康成のみならず、作家たちは素材と日々格闘しながら、自らの個性を表現すべく制作に挑んでいます。
染織の熊谷好博子、木工の春原中道、金工の杉田禾堂ら、信州ゆかりの作家たちがつくりだした様々な工芸の世界をお楽しみください。
|